ナイスミドルになりたい~松本孝行のブログ~

教育とか雇用とかの社会問題、後は趣味のマンガを中心にしたテーマで書いてます。アゴラや自社サイトにかけないだろうなーっていう話題がメインです。

デジタル広告側から見れば、広告代理店の仕事ぶりは羨ましい限り

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私はSEO対策が隠しキーワードで行う時代、Yahoo広告がまだオーバーチュアと呼ばれていた時代にウェブ系の仕事を少しずつし始めた。まぁその頃はデジタル広告なんてやってなかったのだが、Google AdSenseからYahooプロモーション広告、Facebook広告やTwitter広告なんかも色々試したし、お客さんの運用代行もやってきた。

上記のリンクは広告代理店でテレビCMなどを作っていた人がウェブの広告代理店にやってきて、色々と悩んだ上に半年で退職したそうだ。まぁ正直、読んでいてもわかるが、デジタルとアナログの広告では文化が違うし、広告というものの捉え方が違うのだから仕方ない面もある。

私はもう10年はウェブ広告系に携わっているが、私からすれば広告代理店の方々は非常に羨ましい立場に見えてしまう

成果で測れないからクリエイティブの質を上げた?

私は広告代理店出身ではないので広告代理店業界については詳しくない。ただ、広告代理店には広告アート系だけではない販売促進などを行う部署があると聞く。電通や博報堂、ADKなど大手にはあるそうだし、中堅企業でもあるというのを聞いている。こういうところはたぶん、だいぶ文化が違うのではなかろうか。

テレビCMを打つ部署とイベントを企画・運営する部署であれば、イベント企画・運営を行う部署のほうがハッキリとした成果を求められやすいだろう。例えば展示会に出展した場合、何名がブースに来て何枚名刺が集まったのか、かかったコストはいくらか?商談率から計算すれば売上と利益を推測することは可能だ。テレビCMや屋外広告などとはだいぶ違うので、同じ社内で違う文化もあったのではないかと推測される。

逆に言えばテレビCMや屋外広告、雑誌広告などは成果がハッキリとはしていないものだった。テレビCMだと視聴率、屋外広告だと街中を歩く人数、雑誌広告だと発行部数などがあるが、どれも参考資料程度のもので実際の成果からは程遠い。そんな中で広告代理店にいたデザイナーやディレクターは何を頼りにしていたのか?といえば、それがクリエイティブの質だったのだろう。

どれだけの成果があるかわからない、売上や問い合わせというハッキリとした指標がわからないのであれば、クリエイティブの質を一ミリでも高めて満足してもらわなければならない。だからこそアートのために必死になって残業して、一ミリだけでもよくなったものを提案・納品していたのではなかろうか。

デジタル広告は刈り取りばかりか?

まぁ広告代理店については詳しく知らないのでこれ以上語ることができないが、デジタル系をやってきて今もやっている私からすれば本当に羨ましい。我々デジタル系はコンバージョンがクライアントから求められる。いくらの広告を使っていくらの問い合わせ・売上件数があったのか。売上も1注文あたりの単価が低いか高いか、細かいところも当然見られる。

ここではクライアントはクリエイティブの質なんて気にしていない。数字しか見ていない。そして数字が上がればクライアントは喜び、報酬は上がる。デジタル系の広告において質が高い広告というのはデザイン性・アート性が高いのではなく、コンバージョンを取れる広告ということになる

では、実際にデジタル広告の現場はデザイン性やアート性のない、コンバージョンだけを求める物がほとんどなのか?と言われると、9割くらいはコンバージョンだけを見ていると言って間違いない。デザインやアートも私は少なくとも重視していない。なぜアートやデザインを重視しないか?それは我々が売上やコンバージョンに最も近い位置にいるからだ。

AISCEASの時代、デジタルは購入に近いという事実

AISCEAS(アイセアス・アイシーズ)という広告モデルがある。これは確か電通系列の方が作ったモデルだったと思うが、元々デジタルのない時代にはAIDMAというのがあった。

  • A…Attention 注意する
  • I…Interest 興味関心を持つ
  • D…Desire 欲求を持つ
  • M…Memory 記憶する
  • A…Action 行動する

AIDMAの時代は基本的に看板やチラシがメインの媒体だった。なので、注意を引きつけるクリエイティブで興味関心を持ってもらい「この商品がほしい」と思ってもらう。そしてそのチラシの商品名や企業名を覚えてもらって、店舗で購入してもらうという流れになる。これが昔の広告を見たユーザーが動くモデルと言われている。

今はインターネットがあるので大きく変わっている。AとIは同じで、注意をひきつけられて興味関心を持つ。その後はS(Search)で検索をする。この検索の内容も最近だとGoogleやYahooの検索よりも、Instagramなどのタグ検索が増えている。その後、C(comparison)で比較・E(examination)で検討する。まとめサイトや他の利用者のレビューを見て、比較検討するのだ。そしてようやくA(Action)で購入となるがそれで終わりではなく、S(share)でSNSやレビューを書いて他の人と共有するのだ。これが今の広告モデルだ。

ここで気づかれる方もいるだろうが、もはやインターネットの世界というのはテレビCMやチラシ、屋外看板などの広告と違って購入に近い位置にいるのだ。AISCEASモデルの認知してもらうAとIはテレビCMや屋外看板でも可能だが、S以降についてはすべてスマホやPCなどでなければできない。つまり我々ウェブ広告を運用するものにとっては、広告代理店の方々が作るテレビCMや屋外看板よりも、購入・契約に近い位置にいるのだ。だからこそ、問い合わせ数や売上などが求められるのだ。

AISCEASモデル

もっと言えば、この広告代理店からウェブ広告に転職した人は、全く戦う場所が違うところに来たわけだ。テレビCMは注意を引き、興味を持ってもらうことが大事だ。そこから品物を購入することはない。そもそもそういう購入などの機能がついていない。だが、ウェブ広告では決済して購入までがスマホやPCで行える。さらにターゲティングが細かくできるので、興味関心のある人たちにだけ広告を届けられるので、購入確率が高い。単にアート性・デザイン性が高い広告を出したとしても意味がなく、購買に繋げなければいけないのだから。

だから、単純にこの人は転職に失敗しただけであって、広告の文化うんぬんとはさほど関係がないように思われる。

なぜクライアントはコンバージョンを意識するか

そう考えれば、クライアントがデジタル広告ではコンバージョンを意識する理由もはっきりする。テレビCMや新聞1面の広告のように、意見やブランディングではなく、購買に近い位置にあるために、購入を目的とするのも当然なのだ。

とある会社はペットグッズを販売している会社の広告運用を担当している。運用広告について、どういったクリエイティブにして、予算はいくらで、期間はどうやってという丁寧なプレゼンをペットグッズの本社に行った。

するとどうだろう、その本社の社長はすぐにその提案を却下した。この会社は欧米の会社なのだが、社長は「どうでもいいから早くやって、改善を繰り返してくれ」というものだった。つまり、社長がデジタル広告に望んでいたのはきれいな広告文化ではなく、さっさと売上を上げるための手段だったわけだ。

で、この企業の行った方法というのがUGCを活用することだった。User Generated Content、つまりInstagramや動画ポータルなどに投稿したユーザーのコンテンツを使わせてもらうという方法だ。具体的にはペットの写真・動画をそのままアドネットワークの広告に使った。するとどうだろう、今まで以上に売上を上げることができたのだ

これはセミナーで聞いた実際にあった話だ。デジタル広告にはきれいな広告文化をお客さんが求めていないのだ。また、広告文化に貢献するような広告がUGC以上に売上を上げられるのか?というと難しいだろう。ちなみに私も認知を広げる必要があると思い、認知を広げるための施策をデジタルで行ったことが何度かあるが、お客さんには不評だった。クライアントはそのような認知を拡大することよりも、目先の売上をウェブ広告では求めているのだ。

逆に今もテレビCMに芸能人を使ってちょっと遊び心のあるクリエイティブを作れるということは、お客さんはテレビCMや屋外広告にはそういった文化的クリエイティブを求めているのだろう。しかし最近ではテレビCMも効果測定を行おうという試みが海外では行われているので、遅かれ早かれデジタル広告のようになる可能性はあるが。

デジタル広告にはデジタル広告の文化がある

この話は広告代理店とデジタル系の広告運用を行う業界が全く違うところがポイントだろう。同じ広告と言っても、それが指しているものが違うのだ。AISCEASモデルから見ても、購入に近い位置にいるウェブ広告はすぐに売上を出すことが求められる。対してテレビCMや屋外看板など、購入から遠い認知を促す広告は売上拡大を直接求められていない。役割の違いなのだ。だから同じ広告と言っても文化の違う業界に来てしまった記事の方は、辞めて正解だろう。

何度も言うが私は総合代理店にいたことがないので、現在、昔からやってきている総合代理店の広告については語れない。いいとも悪いとも言えない。ただ、毎日数字に負われるよりも、クリエイティブの質に追われるほうが、人間としては気分が良いだろうなぁとは思う。なのでデジタルでせかせかやっている私からすると、羨ましいのだ。

でも私はもうこの業界でやっていくしかないんだけどね(笑)