ちょっと気になることが合ったので、給料と求人倍率についての関連性を調べてみた。よく「人手不足なんだったら給料を上げろ」という声がネット上で聞こえる。この言説、逆に言えば「給料を高くすれば人手不足が解消される」ということだと思うが、本当だろうか?
東京都のハローワークが職業別の給料と有効求人倍率をまとめてくれていたので、それを使って考えてみたい。
職業別有効求人・求職状況 及び 求人・求職賃金状況 | 東京ハローワーク
給与の高さと有効求人倍率の関連性について
職種 | 有効求人倍率(正社員) | 賃金状況(正社員) | 有効求人倍率(非正規社員) | 賃金状況(非正規社員) |
保安の職業 | 15.21 | ¥203,884 | 19.47 | 1045 |
農林漁業の職業 | 0.78 | ¥210,349 | 2.05 | 1042 |
運搬・清掃等の職業 | 0.69 | ¥217,927 | 1.82 | 1006 |
サービスの職業 | 5.02 | ¥221,441 | 6.5 | 1032 |
生産工程の職業 | 1.79 | ¥230,255 | 2.38 | 1067 |
事務的職業 | 0.55 | ¥230,498 | 0.7 | 1082 |
福祉関連の職業 | 3.93 | ¥238,854 | 4.95 | 1360 |
輸送・機械運転の職業 | 3.13 | ¥250,653 | 3.67 | 1102 |
建設・採掘の職業 | 5.95 | ¥253,531 | 1.5 | 1185 |
専門的・技術的職業 | 2.3 | ¥272,033 | 2.29 | 1520 |
販売の職業 | 2.97 | ¥275,062 | 3.51 | 1053 |
IT関連の職業 | 2.68 | ¥282,643 | 0.87 | 1386 |
管理的職業 | 1.35 | ¥405,274 | 0.16 | 1390 |
一応、正社員の給与の低い順番に並べている。これだけを見ると給与が最も低い保安の職業が最も有効求人倍率が高い(=採用が出来ていない)ということなので、給与を上げることで採用できる可能性は増えるだろう。
一方で事務的職業については正社員・非正規社員ともに有効求人倍率が1を下回っている。さぞかしたくさん給与をもらえるのだろうと思いきや、正社員で下から6番目の給与であり・非正規社員でも下から7番目の給与となってる。高くもなく低くもない給与だ。
また正社員の農林漁業の職業と運搬・清掃等の職業についても、事務的職業と同じく有効求人倍率が1を下回っている。にもかかわらず給与は下から2番目と3番目で、高い給与ではない。高い給与を払っていなくても、人材は間に合っている。
逆にIT関連の職業は時給1386円とトップ3で、かつ有効求人倍率が1を下回っている。これは高い給与のおかげで多くの人材が応募してきた、という可能性もあるだろう。
異常に多い事務的職業を希望する求職者の数
給与が高ければ人材不足が解消する、ということが一概には言えないというのが前述した表を見ればわかる。ではもう一つのデータとして求職者数(仕事を求める人の数)と求人数(募集している人数)を見ていこう。
職種 | 有効求職者数(正社員) | 有効求人数(正社員) | 有効求職者数(非正規社員) | 有効求人数(非正規社員) |
農林漁業の職業 | 379 | 295 | 99 | 203 |
保安の職業 | 691 | 10,513 | 365 | 7,106 |
建設・採掘の職業 | 1,175 | 6,993 | 129 | 194 |
運搬・清掃等の職業 | 1,656 | 7,528 | 10,014 | 18,234 |
管理的職業 | 1,656 | 2,253 | 87 | 14 |
輸送・機械運転の職業 | 3,146 | 9,853 | 780 | 2,863 |
生産工程の職業 | 4,998 | 8,926 | 1,130 | 2,687 |
福祉関連の職業 | 5,842 | 22,985 | 3,278 | 16,241 |
IT関連の職業 | 7,997 | 21,448 | 1,027 | 896 |
サービスの職業 | 9,375 | 47,094 | 6,222 | 40,416 |
販売の職業 | 11,222 | 33,369 | 2,739 | 9,627 |
専門的・技術的職業 | 22,944 | 52,798 | 6,678 | 15,288 |
事務的職業 | 46,850 | 25,824 | 17,182 | 11,944 |
そもそもの労働力自体が減っているので、求人数をすべて満たすことは不可能ではあるが、事務的職業を求める人が多いというのは特筆すべき点だろう。なぜ給与が圧倒的に高いわけでもない事務的職業を求める人が多いのか、これがミスマッチの本質ではないだろうか。
つまり事務的職業、この中でも一般職が大半を占めるのだが、一般事務職を目指す人が多いということは専門スキルを持たない人がそれだけ多いという証左ではないだろうか。例えばITスキルを持っていればIT関連の職業つくだろうし、管理的職業や専門的・技術的職業を目指す人が多くていいはずだ。給与も事務的職業よりも高いわけなのだから。
職業訓練の充実、ITや機械化、柔軟な働き方がキーワードか
上記は東京の話なので、東京以外の地方ではまた事情は変わってくると思う。とはいえ、労働者が「給料を上げろ」ということ、そして企業側が「人材不足だ」ということ、この2つを解決するためには下記3つの方法がポイントではないだろうか。
- 専門的職業訓練の充実
- IT・機械化による効率化
- 柔軟な働き方を認める
特に個人的には専門的職業訓練の充実が必要だと思う。事務的職業につくためのワード・エクセルなどよりも、ホームページ作成やプログラミング、二級建築士であるとか警備員の基礎、医療系など様々な専門職になるための職業訓練を充実させるべきだ。
そしてITや機械化によって効率化することで、一人あたりの生産性を上げる必要がある。このときもITや機械を使うわけで、専門職が必要になろうと思う。結果的に専門職が求められることになる。
最後には柔軟な働き方を認めることだろう。例えば管理職は正社員が当たり前だが、非正規やその他の働き方も必要かと思う。ITも非正規での働き方をもう少し増やしたほうがいいだろう。正規・非正規ではなく、柔軟に働けるようになれば労働者にとっても企業にとってもハッピーになるはずだ。
結局私が前々から思っている「職業訓練の充実」が最も喫緊の課題だと思う。だが、国でその話が出ることはほとんどない。早急に議論してほしいものだ。